2013年10月22日火曜日

道尾秀介『背の眼』(上)(下)幻冬舎文庫


「文化人類学者は出来そこないの小説家…」とある人類学者の言葉だが、中島らものように人類学に着想を得た小説も少なくない。この作品も文化人類学、特に宗教、呪術、憑依と言った研究に実に示唆的な作品だった。とにかく、道尾氏のこうした領域への知見、そしてそれをもとにしたストーリー展開は実に感心させられる。

心霊現象、除霊、憑依…実に科学的な回答を与えつつ、この作品ではミステリーホラー小説として、本質的な心霊現象を最後まで否定しない。いくつもこの点で感心させられる点があるのだが、一つだけ紹介してみようと思う。

山奥の「天狗」による神隠し(殺人)事件のクライマックス。亡き妻秋子に「憑依」された歌川。亡き妻は聾者で重い病を得てこの世を去り、歌川は幼い息子とともに生活したが、その息子も不慮の死を遂げる。歌川はその結果、元気に走り回る「子ども」に恨みを持つが、良心との板挟みにあった歌川は、秋子の人格(ペルソナ)の元で「子ども」を攫って危害を加えた。主人公の心霊現象探究家、真備は滝壺に亮介(子ども)を叩きつけようとした歌川に「除霊」を試みる。のちに真備は語る。「憑依体との間の共通の言語」を介在させることが「除霊」であり、被憑依者と憑依体、除霊者の三者の間での意思の疎通が必要で、そして除霊者が語りかけるのは、憑依体ではなく被憑依者だ…

小説としても楽しかったし、とても勉強になった。この前、研究仲間とも話していたのだけど、人類学を学ぶ者、小説は忙しくても読まねば、と再実感したのでした。

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