2017年3月30日木曜日

足元をしっかり固める:石井洋二郎さんの送辞と英心高校の野球部

3月。別れの季節です。以前も立教中学と立教大学の卒業式の送辞を並べてみましたが、東日本大震災に言及したもので、実に味わい深くて、とてもよい贈る言葉、だと思い、こちらのブログでも紹介してみました。

日本の4月はじまりの年度である限り、こうしたサイクルは繰り返されるし、最近はネットのニュースもこれが恒例のネタになってきている気がするので、あんまり乗っかりたくはないのですが、それでも、校長先生や学長、総長がずいぶん練ってきた文章。とても染み入る文言がちりばめられていました。今年は東大の石井洋二郎教養学部長の送辞がたくさん上がっていました(ネットのニュースも、東大か…という意味ではがっかりですが)。

情報が氾濫し、その「正しさ」も明らかでないうちに、リツイート、シェアを繰り返すことで、情報が明らかに誤った方向に行ってしまうことを嘆き、そうした状況に抗する力になるのが「教養」というものではないか、ということ。以前、濱田元東大総長が話したとされる「肥った豚よりも痩せたソクラテスになれ」というフレーズがいかに誤解されたか、という事例を用います。こうした批判精神をもって、世の中を照らしてほしい、という石井先生の願いが籠った、カレジャブルな一節です。

「あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一時情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること、この健全な批判精神こそが、文系・理系を問わず、「教養学部」という同じ一つの名前の学部を卒業する皆さんに共通して求められる「教養」というものの本質なのだ」

そして、石井先生はこのように続けます。

「それはドイツの思想家、ニーチェの『ツァラトゥストゥラ』に出てくる言葉です。
きみは、きみ自身の炎のなかで、自分を焼きつくそうと欲しなくてはならない。きみがまず灰になっていなかったら、どうしてきみは新しくなることができよう!
皆さんも、自分自身の燃えさかる炎のなかで、まずは後先考えずに、灰になるまで自分を焼きつくしてください。そしてその後で、灰の中から新しい自分を発見してください。自分を焼きつくすことができない人間は、新しく生まれ変わることもできません。」
僕もそろそろ焼き尽くしてしまうと立ち上がれなくなりそうな気がしないでもないのですが、こういう気持ちは大切だな。守るものができたからと言って、それではいかんな、と自戒させられます。
(Huffingtonpost, 20170329, http://www.huffingtonpost.jp/2015/04/08/tokyo-university-speech_n_7022498.htmlより)

こんな記事を読んでいたら、ちゃんと「灰」になった高校生の話が出てきました。三重県の英心高校という学校の野球部は、三重県の予選で強豪、宇治山田商業(なんと僕の亡父の出身校!)に0‐91という記録的な大敗を喫します。この高校は、もともと不登校の生徒を多く受け入れていた高校で、どうも部活どころの学校ではなかったよう。しかし、休み時間には、キャッチボールをする生徒もちらほらと。野球経験のある豊田先生は、野球を楽しめるように「部活」を作ったという。昨年7月の最初の試合では「バット1本、ボール10球、ヘルメットは相手から借りる」という状況の中、0‐26という大差で負けてしまう。そして、春の予選、0‐91という点差で負けてしまう。

僕もラグビーで100点ゲームを経験したことがありますが、もう相手に触ることすら怖くなってしまうんですね。野球の91点というのは、それ以上に心を折られる経験だったかもしれません。こういう試合をグランドで耐えた選手たちもそうですが、こんな風に言える豊田先生も立派です。

「今までは、ピッチャーがストライクに入らず四球が続く試合ばかりでした。すると、相手チームは20~30点も差がつくと、試合を終わらせようとバントして自らアウトになるんです。でも今回の宇治山田商は県屈指の強豪ですが、フルメンバーで最後の最後まで攻撃の手を緩めませんでした。うちのピッチャーもストライクを入れられるようになりました。これは『終わらせてもらっていた試合』と違い、勝負の中ではっきりとついた91点差だったと思っています。初めてチームとして認められたという感覚でした」

(J-castニュース, 20170328, https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170328-00000007-jct-soci&p=2)

部員の中に「不登校」の生徒が何人かでもいたなら、ちょっと怖い感じすら受けてしまいますが、監督さんを含めて10数名、本当に「灰」になり、もうすでに新たな息吹すら感じられます。こういう生き方を見せられると、少し勇気が出てきます。

東大と英心高校、いろんな意味で対照的な学校です。英心高校の生徒が体験したこの大敗は、きっと豊田監督が代弁しきれているとは到底思えない…のですが、きっと東大の石井先生が引いてきた『ツラトゥストゥラ』の一節は、きっとこんな体験のことを指しているのだろうと思います。素晴らしい話を聞き、また、素晴らしい経験をした若者たち(という言葉を使うようになってしまった…)が伸び伸びと羽ばたける世界が待っていますように。

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