伊坂幸太郎2009『終末のフール』集英社文庫


先週末、栄のBook Offに初めて足を踏み入れ、『死神の精度』とこの『終末のフール』を購入。『死神の精度』は早々にやっつけ、ここ数日間は『終末のフール』を読んでいた。


伊坂は研究室内でも読者が多いので、飲み会のときのネタになりやすい。とてもスマートな文体だし、仕掛けも面白いので、「文学研究科」の大学院生にとっては、格好の「酒のあて」となる。


構成は8つのプロットで、最初のプロットで全体の前提が敷かれる。5年前に発見された小惑星が、8年後に地球に衝突し、人類が滅亡する、人類全体が残り3年の命と宣告された世界が舞台である。


解説を書いた吉野仁氏が的確に、そして完結に、この小説の見どころを書いているのだが、もっと簡単にしてしまうと、「死」を描くことで「生」、「生きること」の在り方を問う、これが本作品の狙いだろう。吉本隆明が引いたE・キューブラー・ロスの一節を吉野氏が引いている(曾孫引き…すいません)一節から。ロスは「〝死に至る″人間の心の動きを明らかにした」のだが、ほとんどの人は、死を「否認」⇒自分が死ぬことに「怒り」⇒生に執着するために何かにすがり(「取り引き」)⇒何もできなくなり(「抑鬱」)⇒最後に「受容」する、という5段階を経る、という。伊坂はこのロスの〝死に至る″人間の心の動きをたどっている、という。


この物語が始まる前、世界の滅亡が宣言され、殺戮が繰り返され、いわば社会規範自体が崩壊する。しかし、死を「受容」したタイムリミット3年のこの世界では、再び人が人を必要とするようになる。ニーチェあたりを下敷きにしていそうな、死を語り、ポジティブに生き抜かねば、という話なのかと思う。

「明日までしか生きられなかったら、何をするか」、よくカレーとかラーメンを食べる、と答えていたように思うけど、改めて「生きる意味」のようなことを考えてみたくもなった。

深くてさわやか、伊坂作品でも割かし上位にランクづけ。

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