『エール!』エリック・ラルティゴ監督
久々の劇場での映画鑑賞。前に見たい映画リストに入れていた気がするけど、淳子にお願いして選んでもらった。ろう者の映画で、ろう者の研究をされている知人にご紹介しようと思ったのだった。
「障碍」や、マイノリティをどのように表現するか。かたや、権利の闘争のために、正面からこうした不利な状況を訴えかける、また、差別することの非正義を非難する、こんな方法がとられるわけだが、もう一方でパロディ化する、というのも一つの方法だ。この映画にはいろんなことが描かれるのだけど、この点から見れば、後者なのだけど、パロディという割には、一つ一つのセリフがとても鋭い。
いくつか例を紹介するが、その前に簡単に話の前提を。
この映画は、主人公ポーラ・ベリエ(ルアンヌ・エメラ)とその家族(ポーラ以外はすべてろう者)の物語。歌の才能を見いだされるポーラは音楽教師トマソン(エリック・エルモスニーノ)からパリの音楽学校のコンクールを受けることを勧められる。歌の聞こえない家族の反対、しかし、ポーラと家族は打ち解けながら、ポーラの夢をかなえようとする。
僕がこの映画でとても面白い、と思ったことはいくつもあるのだけど、やはり最も興味をもったのは、「障碍」や「ろう者」の描き方だった。
まず特徴的だと思ったのが、精力の強い障碍者という描き方で、こういう手法は今まで見たことがないし、この映画では、それをさらにパロディ化しているのが印象的だった。ポーラの両親ばかりか、弟(やはりろう者)がポーラの親友に手話を教えながらいたずらをするというシーンがある。
もう一つが、ポーラがパリの音楽学校のコンクールを受けることを家族に打ち明けると、母ジジ・ベリエ(カリン・ヴィアール)は唯一耳が聞こえる娘が家族を捨てようとしていると思い、自棄酒を煽る。そこで出てくるのが、こんなセリフ。
「ポーラが生まれたとき、耳が聞こえるといわれて、とても不安だった。」
このセリフの前に、父ロドルフ(フランソワ・ダミアン)は「耳が聞こえないことは個性だ」と述べるのだが、違う個性を持つ子どもにはそんな感情が沸くのだ。とても説得的で重みのある表現ではないだろうか。
先だって餃子をたっぷり食べて、静かなフランス映画のこと、途中で少し落ちるだろうな、と思っていたら、最後までとても面白く見させてもらった。なかなかのお勧め作品です。
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