セネガル新大統領（2024年大統領選挙）と西アフリカ情勢

 

バシル・ジョマイ・フェイ新大統領（Mali jet 20260326 より）

2024年3月26日、セネガルに新大統領が誕生した。バシル・ジョマイ・フェイ氏だ。日本の報道各社も小さく、論調も似たようなものではあるが速報を流している。選挙が行われた当日は気が抜けるほどあっさりと勝利宣言が出たが、ここにいたるまで、かなりの混乱を経ていた。昨年学生がセネガルに滞在していた5月ｰ6月ころから、マッキ・サル大統領が憲法で禁じられている三選を目指す、という話が出始め、ダカール市内で市民蜂起があったりした。2月3日には、2月25日に予定されていた選挙を延期すると発表されると、市民はデモを組織し、治安部隊との小競り合いが各地で起こった（武内20240206）。こうした動きの背景には、マッキ・サル大統領による野党候補の（乱暴とも思える）抑え込みがあり、さらには、100歳になろうとしているアブドゥライ・ワッド元大統領、その息子のカリム・ワッドなどの動きが複雑に絡まりあっている。対立候補が絞り込まれていく過程で、最大の対立候補のウスマン・ソンコ氏はジョマイ氏の指示に回り、3月6日の憲法評議会で投獄されていたソンコ、今回当選したジョマイ氏ともに恩赦法により14日に釈放、24日に選挙実施案が承認された（武内20240316）。結果は報道されている通りである。

アフリカ・アジア現代文化研究センター主催の緊急シンポジウム「西アフリカ諸国で何が起きているのか―セネガル、ギニア、マリ、ブルキナファソとニジェールの政治危機を考える」（2024年2月21日）の開催趣旨で、次のように書いた。

「2024年2月3日、月末に予定されていたセネガルの大統領選挙が無期限に延期となったニュースは耳新しい。多くのアフリカの国々で大統領選挙が近づくと、任期延長や「三選問題」が浮上するが、セネガルでは現サル大統領の一期目の選挙以降、「民主的」な選挙が行われていたこともあり、このニュースは一抹の不安と驚きをもって受け入れられた。アフリカの多くの国々が大統領権力の長期化による腐敗を防ぐため、憲法で三選禁止規定が明記されているが、これまでも、ブルキナファソ（2014年）、南スーダン（2018年）、コートジボアール（2020年）、ソマリア（2021年）、ブルンジ（2023年）、中央アフリカ（2023年）など、三選禁止規定を乗り越えようとする事例が枚挙にいとまがない。2021年以降、現セネガル大統領のマッキー・サルが三選を目指すという憶測が報道され始め、しばしば反対デモが組織された。2023年7月にサル大統領自身が次期大統領選への出馬を否定したものの、その前後に野党候補者の逮捕など、西アフリカで最も民主的で政治的安定を誇ったセネガルの政治状況に陰りが見え始めた。」（CAACCS 2024年2月16日）

実は、これを書いているときに、セネガルの大統領選とサヘル三か国とギニアは三様の事情を抱えているように考えていたため、これらの国々の事情を無理やり並列させてしまうことで混乱した情報になるのではないかと非常に苦慮していた。緊急シンポで話を聞いても、イスラーム（アラブ）ーキリスト教（西欧）、アラブー西欧、遊牧民―農耕民など複数の対立軸が絡み合うサヘル三国の事情と、限りなく国内の権力闘争の意味合いの強かったセネガルの大統領選はとりあえずは全く別文脈として扱う、という理解でほぼ正しかったと思う。

そのうえで、ちょっと気になることがあった。アフリカのニュースを発信しつづけている東京外国語大学の武内さんは、ソンコ氏がサラフィスト的側面があるという指摘を示し、ジョマイ新大統領の「自分は信仰を個人に押し付けない。国家がそうしてはいけない。セネガルは民主的な世俗国家でありつづけるべきだ。宗教でセネガルが分断することはない」というコメントを紹介している（武内20240326）。また、ある方が某SNSでつぶやいていたことだが、その方は、ジョマイ新大統領の内政面での評価をしつつ、「独自通貨の導入や石油開発・EU漁業協定の再交渉」を公約（私には見つけられませんでしたが…）に掲げていることに懸念を示している。こうした発言を見ても、サヘル三国の外にセネガルがあったのはよくわかる。そのうえで、Mali jet（20240326）に掲載された施政方針演説を見ていると、サヘル地域の安定化を目指した高邁な平和人道主義的な理想を感じるが、セネガルの立場性の認識と現状にずれがないか、という点に若干不安を感じる。以前、このブログでもワガドゥグの交差点に掲げられる国旗について書いたが、サヘル三国はもはやフランスをパートナーとしてみなしておらず、現状、セネガルは問題を共有できる政治的なパートナーであるとは認識されていないはずだ。

現在の状況が好ましいなど、ジョマイ新大統領もサヘル三国の指導者、国民ともに感じてはいないだろう。ジョマイ大統領の活躍に期待したいが、サヘル三国をどのような政治態度で挑むのか。「地域」という広い枠組みを考えたときに、もしかすると大きな役割を果たすのかもしれない。引き続き注目しておきたい。

【参考文献】

JIJI.com 

    2024年3月26日　https://www.jiji.com/jc/article?k=2024032600204&g=int

日本経済新聞（Web版）

    2024年3月26日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR250P40V20C24A3000000/

CNN.co.jp　

    2024年3月26日 https://www.cnn.co.jp/world/35216933.html

東京新聞（Web版）

    2024年3月26日　https://www.tokyo-np.co.jp/article/317316

東京外国語大学　現代アフリカ地域研究センター　

    2024年2月6日「セネガル大統領選挙延期」https://www.tufs.ac.jp/asc/information/post-983.html

    2024年3月16日「セネガルの民主主義」https://www.tufs.ac.jp/asc/information/post-991.html

    2024年3月26日「アンチ・システム候補がセネガル新大統領に」            　　　　https://www.tufs.ac.jp/asc/information/post-996.html

Mali jet 

    20240326 https://malijet.com/actualite-sur-afrique/289177--consolider-les-acquis-et-corriger-les-        faiblesses---diomaye-faye.html


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