科学研究費「西アフリカのライシテと宗教性の連続性の文化人類学的研究」(基盤B/21H00651)② 学会報告(2023年度)

 

2023年5月に千葉で行われた日本アフリカ学会第60回学術大会で本科研研究の進捗を発表しました。昨年の学会では、科研費の中間発表を行いました。「西アフリカのライシテ研究の可能性と課題」と題し、科研費のメンバーの和崎春日先生ウスビ・サコ先生伊東未来先生阿毛香絵先生と私の5名でフォーラムを組みました。

【本フォーラムの趣旨】 

 本フォーラムでは、科研費「現代西アフリカにおけるライシテと宗教性の連続性の文化人類学的研究」(21H00651/代表者:清水貴夫)の途中経過を提示し、本課題の妥当性や方向性、新たな視点を募り、本研究の進捗を発展的に検証することを目的とする。この研究課題の対象となる西アフリカは、ここ10 年ほどの間に多発したイスラーム過激派のものとされるテロ、社会保障を補完する信仰NGO、私学として国家が正式に認可する初等中等教育と言った、公共空間における宗教組織の存在が前景化し、その影響は到底無視できるものではなくなった。

これらは、政治―宗教、公共空間―宗教、宗教-社会福祉と言った、様々な関係性の中に重層的に観察できる問題群であり、これらを束ねる概念として「ライシテ」に着目し、こうした関係をどのように捉えるべきか、という点に着目した本研究の問題意識である。さらに突き詰めれば、西アフリカにおいて考えられるラ イシテの概念は、必ずしもフランス的なライシテ概念には収まらないということであり、 西アフリカ的な宗教と公共空間、政治の関係性を、公共空間―宗教性―日常―政治の連続性にあるという点にある。

本フォーラムでは、いわば「西アフリカ的なライシテ」を検討することの可能性と課題を提示し、フロアと議論したい。ライシテ概念とは、共和政体としてのフランス近代国家の成立を裏付けた、宗教性から自律した世俗性を定めた近代国家の成立条件である。旧フランス領アフリカは、1960 年 前後の独立に際し、その憲法に、フランスに倣いライシテの原則を書き込んだ。しかし、ライシテが生まれたフランスでもその綻びはさらに顕在化し、宗教と世俗社会の間のアプリオリとなっている。いわんや、外来の概念として「上から」課せられた西アフリカにおけるライシテは、この地域の社会形成の上で上滑りしてきており、こうした現象は、様々な政治・社会問題において散見される。その都度、西アフリカ社会におけるライシテの在り方が議論されるが、人びとの日常生活においては、宗教組織が社会のセーフティネットや人びとと政治をつなぐ中間組織となっており(例えば、「信仰 NGO」や宗教教育)、宗教は政治的に切り離されているはずだが、実際には公共空間に堂々と鎮座していると捉えるべきであろう。

以上のような実情を元に考えれば、本研究では国家と個人を二極化せず、社会集合性や共同性を濃淡として捉え「ライシテ―宗教性」の連続体を析出・分析し、現代社会の新たなモデルとして提示し、個人と宗教の関係性が再び問われている現在社会の在り様を考察している。本フォーラムでは、本研究に関わるメンバーにより、それぞれの調査地での研究進捗を提示し、議論を喚起していきたい。

詳細は要旨集をご覧ください。

質疑では、根源的で重要なコメントをいただきました。大きく2つの指摘がありました。一つは、政治(国家)と宗教の問題として語っても、問題ないのではないか、ということ。つまり、ライシテという言葉を使わずとも、私たちの事例はもっとシンプルなものなのではないかという点。もう一つが、各所に出てくる「市民」というタームについて。誰が「市民」なのか?文化人類学ではかなり限定的に使用される単語ですし、それをどのように運用するのか、ということを問われたのだと思います。ライシテを考察する上での対象を明確にしておく必要を感じました。

こうした議論を踏まえ、さらに発展的に研究を展開していきたいと思っています。


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