曾野綾子さんのコラムとその反応:「差別」の構造を考える


2月11日の産経新聞に曾野綾子さんが書いたコラムが話題を呼んでいる。曾野氏のコラムを要約すると、バイアスがかかるので、上の記事をご覧いただくとして、抗議は「アパルトヘイトを擁護、日本にも導入しようとしている」というもの。

昨日(3月6日)付けの産経新聞にもペコ南ア大使のコメントとして、

 また、ペコ大使と編集幹部らとの面談の席でも同様の内容を伝え、大使からは
「日本国内で移民の論議が行われるのは大切ですが、南アの悪い過去 が、例として使われたので、発言せざるを得ませんでした。ただ、今回のことは日本と南
アが理解しあうためのよい機会となります。これをきっかけに 両国の理解を深
めていきたい」という話がありました。」

こんな文章が載っている。ここで、「日本国内の移民の議論」が曾野さんの論点だとしたら、それを説明しようと考えて提示した事例がまずかった。都市ではいわゆる「ジェントリフィケイション」という現象(貧困層が住むエリアに富裕層が流入してそこに貧困層が住めなくなってしまう現象)が起きて、階層による棲み分けがおこることはよく知られている。やはり人為的に、肌の色と習慣を結びつけた時点で、アウトなのである。

特に検討はしないが、このコラムに対しては、アフリカ学会やNGOから抗議文が寄せられ、掲載元の産経新聞は対応に追われている。



僕もFacebookにちょろっと記事を挙げたりコメントをしたのだけど、「産経(保守)だから…」とか「曾根(保守)だから…」という、産経、曾根さんのみならず、僕まで暗に反保守的な枠組みに当てはめようとするレスが多かった。自分自身が保守であるか、進歩的(保守の反対はこれでいいのか?)なのかどうか、僕自身、よくわからないのだけど、少なくとも、この枠組みは好きではない。仲間意識をもってくれるのはいいのだが、この枠組みを取ってくる時点で僕とは全く相いれない。

そもそも、アパルトヘイトの原点には、肌の白い植民者と未開なアフリカの黒人という存在の二項対立があった。ナチスもユダヤ人という仮想敵を設定して、二項対立をつくりだし、戦後のアメリカも時に対イスラームという図式をつくりだすことで、罪もない人びとを被害者にしてしまった。こうした誰でも知っている歴史と、保守と反保守、という図式は、僕にはどこか似たものを感じさせてしまう。だから、僕は、産経新聞が議論のアリーナを築くべき、また、曾根さんはもっとアパルトヘイトについてどのような理解をしているかを語るべき、という主張にした。確かに、産経は保守的な報道をしてきたのは事実だし、曾根さんにしてもそうだろう。だが、産経や曾根さんに保守というラベルを張り付けることで、議論はそこで終わってしまう。曾根さんのその後のコメントを見ても、小説家の魂、言論の自由という、大文字の語りを展開するものの、アパルトヘイトに対してどのような認識であったかは語られずじまい(「アパルトヘイトはダメ」とは言っているが)。

ご存じのとおり、僕らが受けてきた歴史の授業でアフリカのことなど、ヨーロッパの歴史からすれば微々たるもの。あの程度の授業で普通の人が今回曾根批判をしたアフリカ・フリークほどの知識を持っているかといえば、それは疑問だ。悠長に思われるかもしれないが、アフリカ学会、NGOはもう一度語ればいいし、もっと語らなければならないように思う。右とか左とか、そういう枠組みを作ること自体が差別を生み出したこと、こんなことは60年代、70年代にずいぶん語られたことで、このことももっと語らなければならないのではないかと思う。

曾根さんが本来言いたかった移民に関しても、曾野発言以降にHuffington Post(2月28日)が「人手不足」と外国人として提示したように、この話題はとても重要なのだ。敢えて「言葉じり」を取ったとは言わない。「アパルトヘイト」は人類史的に大切な問題だ。だが、ここで終わってしまっては、サヨクが吠えただけ、というとても小さな事件として終わってしまいかねない気がしてならない。


【抗議文例】
南ア大使館 (20150216)https://www.facebook.com/media/set/?set=a.700448363401240.1073742000.238954642883950&type=1
SYNODOS (亀井伸孝・20150225) http://synodos.jp/society/13008
日本アフリカ学会 (20150216) https://www.facebook.com/sankeikougi
アフリカ日本協議会 (20150213) http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/archives/sonoayako-sankei20150211.html

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