姜尚中『母-オモニ-』

おパリざんす。

姜尚中、こういう本も書いているのだな、と思って買った本です。寝る前に読むように入手した本だけど、ここのところ1行読む前に寝てしまうような状態だったので、読みかけにもかかわらず持ってきてしまった。飛行機の中で一気に読んだ。

相変わらずネタバレするようなことは書かないので、印象なのだけど、シンプルな話題、文体だけど(しかしあまりこなれない)、深みのある本。何度も書いてるけど、僕は母親ネタには非常に弱いので、それだけでウルウルきそうになるのだけど、それでもが戦後の混乱期をむしゃらに生き抜く母親の姿、クールに見えるのにとても孝行者の筆者、それだけでおなかいっぱいだった。

最後の「文庫版あとがき」にこんな一節がある。

「ありふれたひとりの母とその家族の物語とはいえ、そこには『三丁目の夕日』のような、ほのぼのとしたノスタルジーを掻き立てるものはどこにもない。それでも、その物語に多くの読者が感情を移入できたのは、本書の中に書き込まれた母の肖像が、民族や出自、背景や場所の違いを超えて、それぞれの読者の「母」の記憶と重なり合っていたからに違いない。それは、ある時代を生きた世代だけが共有し合えた「母」のイメージや記憶であるにしても、そこには間違いなく波乱に満ちた時代がしっかりと刻印されていたのである」(311)

『三丁目の…』は未来へと続く、成長の物語で、もし対置させるとしたら、日本に渦巻いたルサンチマンのはけ口にされた人びとの暗雲垂れ込めた未来への物語、というべきか。筆者自身がハングル名を名乗るに至った経緯や、強き母親像を織り交ぜながら語られる戦後の混乱期の日本におけるマイノリティの生き様。でも決して恨み節でないところが、この姜尚中という人のなせる業か。

この日韓関係のこじれた時期だから読み直してみたい一冊であることは間違いない。

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