セネガル・プログラム2025 ④ NGOの力、アーティストの力

マングローブ林を解説するThomas
Thomasと回るセネガル沿岸の旅2日目。かねてよりThomasが案内したいと言っていたNGOを訪問する。Nbourの街中の川のほとりにあるAGIREの事務所には、多くの小中学生がたむろしている。

Thomasに導かれて通された事務所の中は、多くの「女性」が忙しく立ち回り、私たちはサロンのテーブルにつかされた。しばらくすると、AGIREの活動についての説明が始められる。このNGOの活動として、マングローブ林の植林、蠣や水産加工品や食用として消費される貝類の養殖、そして、ことさらに強調されていたのは「リーダーシップの養成」、ということだった。

話はそれるが、僕自身、アフリカやNGO、国際開発ということに関わり始めたのは、以前、このブログでも何度か紹介してきた森本栄二さん(学生時代の恩師)やアジア学院の影響によるものだった。特にアジア学院は、創設以来、途上国のリーダーの育成を強く押し出し、コミュニティのすべての人が取り残さないという哲学を持ち、そのために、サーバントリーダーシップ(奉仕するリーダーシップ)という独特なリーダーシップ論を展開、実践してきた。アフリカのローカルNGOも数十の団体を見てきたが、大変素晴らしい活動をしているNGOであっても、その多くは、創設者によるワンマン経営であることが多く、創設者が倒れるとその団体そのものが存在を消す、というのが常であった。つまり、多くのローカルNGOは継続的なコミットメントが脆弱で、支援の瞬間風速で勝負している感じ。AGIREの代表のカリム氏がこうした考え方に共鳴する、ということは強く興味を惹く。 

Nbourで活動を展開するNGO AGIRE
話をそこそこに、潮が満ちる前に見せたいものがある、とのことで、長靴をはき、事務所前の橋を渡ったところにある水辺へ。河口部には、囲いがしてあり、様々な設備が整然と並べられている。大西洋に面するセネガルはアフリカ有数の水産物の豊かな国。セネガル沿岸は寒流と暖流がぶつかる好漁場に面している。40年ほど前から蠣の養殖が始まり、沿岸部に広く養殖場が広がっている。人々の生活にも入り込んでおり、イエットのような蠣の加工物なども生産されている。今回AGIREに見せていただいたのは、このNGOが試みているいわば「実験圃場」のようなところだった。

蠣の養殖器
たとえば、この写真は、蠣の幼生を肥育するための器材だが、本来、縦に並べていたものが、横置きにするとより肥育が進むとのこと。最近導入された新たな技術なのだそうだ。肥育された幼生は、下の写真のようにさらに肥育させる。

もちろん、こんなに近くで見せてもらったのは初めてで、大変勉強になったのだが、本当に関心したのは、この「実験圃場」の見学の後半でのことだった。
蠣の養殖の風景
この「実験圃場」では、蠣の養殖の傍ら、現地でよく食べられるほかの貝の養殖もおこなっている(名前が確認できていないのですが…)。乱獲や気候変動が影響していると考えられている、これらの貝類の漁獲高の減少、資源の回復のためこうした貝の養殖に力を入れているのだが、AGIREの活動で関心するポイントがここにもある。それは、大学にも行っていないメンバーたちが自ら貝類の成長や環境を数値化し、より適切な環境を作り出そうとしていること、そして、さらに感心したのは、大学や研究機関の協力を切望していること、自己顕示欲や承認欲求に突き動かされるNGOとは全く違う、と感じた一幕であった。

この後、代表のカリム氏と共にマングローブの植林の体験をするが、帰りの車を待っている際に語っていたことである。AGIREは、政府をはじめとする公的資金をもらっていない。また、もらおうと思っていない。それは、そうした資金を取ることで、全く違う仕事が入るため、そして、その資金を取ることにより、経営が不安定化するため、さらに、リーダーを育てることが難しくなるためである。大変重要、そして、私も外側の人間ながら、多くのローカルNGOを見ていて、共感する点であり、彼の言に大きく首肯した。そうしたスタンスであるにも関わらず、サイエンスへの信頼、つまり、彼らの活動を科学の目からの批判にさらすこと、こうしたことを望める、というのは、大変な知性、教養の持ち主であると思った。しかし、このカリム氏という人物、もとはと言えば、一人の漁師。学校もほとんど出ていないという…

マングローブの苗
お昼を食べる前に、事務所から10分ほどのところにある、マングローブの植林サイトへと向かう。カリム氏は数十人のスタッフやボランティア、そして、夏休みの学校のプログラムで参加した小中学校の生徒たちと泥まみれになりながら作業に精を出していた。我々も植林の方法を教えてもらい合流する。炎天下、というよりも、雨季にも関わらず比較的爽やかな気候の中、学生たちと一緒にマングローブを植え付ける。土の間隔、吹き込むそよ風、即興で歌を作る参加者の女の子たち、学生たちはどんなふうに感じたのでしょう?学生の体調の問題もあり、半日という短い間でしたが、とても良い経験ができたように思います。

学生たちとマングローブの植林のお手伝い

こんな形で、Thomasともプログラムをすることができました。Poison d'or Poison d'afrique以来、彼の問題意識はよく理解しているつもりで、実際に私自身も現場を体験できたことは大変有意義なことだったし、いつにも増して熱を帯びる彼の語り、そして、彼が絶対的な信頼を置くKarimという人物。大変足腰の強いNGOと強い情熱を持つアーティスト。その属性の面白さも然りですが、ポジティブな空気に包まれたAGIRE周辺の空気感は大変魅力的なものだった。

昨年から、セネガルの「海」にご縁があり、いくつかのサイトを見学することができたが、今回は巻き込まれてみたい、という感覚を持った。

コメント

このブログの人気の投稿

【日本のアフリカン・レストラン】④「Amaging Grace」@草加(ガーナ料理)

食文化シリーズ「スンバラ飯Riz au Soumbara」

素晴らしい祝辞②[立教大学2015、立教新座中高等学校2011]