印南貴史2013『ラーメンより大切なもの』(映画)

また食いものネタか(笑)。ついつい買ってしまった。

ラーメン界のレジェンド、大勝軒の山岸一雄さんを追いかけたドキュメンタリー。山岸さん自身は残念ながら、2015年4月に亡くなられたけど、大勝軒自体は僕自身もとても好きなお店で、機会がある毎に足を運んでいる。残念ながら京都にはほとんどないのだけど、名古屋にいた頃は、本山、今池、金山とよく通ったもの。

「食文化」のタグ付けをしたけど、この話は、山岸さんの早世された奥様との話に裏打ちされた山岸さんの人生ドラマ。人格者としても知られた山岸さんの仕事にかける情熱、僕には、この情熱は忘れられない奥様の思い出を意識の外に出しておくためにされてきた、そういう日常の営みなのではないか、と感じられた。

奥様との思い出はこのドラマの中ではほとんど語られない。そして、メイキングで久石譲さんが語るように、山岸さん自身、このことは全く解決されていない。現在進行形の中で映画は終わる。奥様とはじめ、50年間続けた、東池袋のお店が取り壊されて、なにやら山岸さんの表情が変わったように見えたのは僕だけだろうか。完成イベントの山岸さんの表情を見ていると、なんかもっと穏やかになったような印象を受ける。

こういう「ラーメン道」的な話のなかに垣間見える、ピリピリした嫌な緊張感はこの映像の中にはない。人を叱るシーンがないからか。きっと山岸さんの人柄の表れなのだろう。

「美味くて、安くて、腹が一杯になる」

戦後の辛い時代から、培われた「食べること」の意味が詰まった作品でした。


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