研究を始めるのが遅くなった人へ、もしくは、再開する人へ

研究の世界に入って、早いもので10年が過ぎた。

正直に言えば、僕より遅く入った人たちがパーマネントの職を持ったり、学会賞を取ったり。もちろん、研究の発展に寄与しているということなので、特に親しくさせてもらっている人たちには、心からお祝いをするのだけど、一方で羨ましくないと言えば、嘘になる。

今、また論文の校正をしているのだけど、やはり言われるのが、フィールドデータの弱さだ。これは毎回言われる。これだけ渡航しながら、何をやっているのか、と問い詰められれば、それにはなにも反論できない。しかし、なぜフィールドデータが弱いかと言うことの言い訳をいくつかすれば、その一つは、2011年以降のブルキナファソでたびたび起こる政治的混乱ということがあったし、もう一つは、何か、すべてを投げ打ってフィールドに集中できなかったこと、これも小さくない。

僕は30歳で大学院の門をたたいた。ストレートでくれば、22歳で入学してくるから、そこそこの遅れを抱えていた。この年齢差、繰り返すが、言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、以外に大きい。一応、会社などという、安定した組織の中を経てみると、院生という、とても脆弱な立場にいること、また、一般的な大人にとって当然のことが、大学院ではまったく当たり前ではない、そのギャップに、大いに焦りを感じる。

たとえば、大学院生は、何の躊躇もなく、数百万円の奨学金を借り、それを生活費に充当する。その先に、返す当てもないのに。大学院を卒業して、いきなりパーマネントの職を得られる人など、1%もいないだろう。僕のように、期限付きの職をいくつも経てようやく、というのが現状だ。それでも、僕の場合はラッキーで、院生時代に非常勤の研究員をさせてもらい、そのあと、地球研、そして、現在の広島大学、と研究員を何とかつなげている。

まだ学位も持っていないのに、何とかなっているのは、おそらく、会社にいたころに染み付いた守りの姿勢を持っていたからで、つまり、生きていくための術、ある人に言われたのが、「ストリート・ワイズ」(⇔「スクール・ワイズ」)に過ぎている、ということが大きい。簡単に言ってしまえば、つまり、自分のプロパーの研究を放っておいても、頼まれ仕事をやる、ということになる。

これだけたくさん「渡航」しているのに、なぜフィールドデータが集められなかったか、と言えば、結局この辺に原因がある。しかし、その結果、僕は地球研でたくさんの経験とつながりを得て、おそらく、大学院にいてはありようもなかった、ほんの少しの貯金、借金(奨学金)の返済が行えた。研究を始めるのが遅くなったり、再開しようと思っていても、心配することはない、何とかなる、ということは一つ言っておきたい。

それで、何度も言うけど、僕個人の問題としては、ここに書いたことは単なる言い訳。でも、何とか、借金を少なく、結婚して、何とか子どもを持ち、ということの背景には、こういう生き方をしなければならなかった、ということは書き留めておきたかったし、これから、新たに挑戦しようと思う人には、参考にしてほしい。一つの後悔は、やはり、できるときにやらなかった、一時期のフィールドでの怠惰な生活だ。しかし、後悔先に立たず。足りないところは埋めていくしかない。そして、そう思ったときは、まだ遅くないはず、そう信じて進むしかない。

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