『日本のいちばん長い日』原田眞人(脚本・監督)、半藤一利(原作)


『日本でいちばん長い日』、見てきました。毎年この時期に合わせて、第二次大戦の映画が何本も公開されますが、これは1967年公開の同名の映画のリメイク。残念ながら、まだ最初の作品は見ていないのですが、笠智衆や三船敏郎など、当時の第一線のキャスティングをしているところを見ると、かなりの話題作だったのではないでしょうか。特に今年の3月には『昭和天皇実録』が出版されるなどで、史実としての注目もあびましたし、最近の「安保法案」の問題もあり、かなりの注目を集めているのではないかと推察します。

作品は第二次大戦末期、いかにこの戦争を終わらせるか、というあたり。話はそれるが、小中高と都合3度は日本史を勉強しているはずなのだが、鈴木貫太郎という首相のことは、戦争を処理した、という印象以上のことを知らないが、ここのところ、ずいぶん注目を集めているような気がする(先日NHKでも特集していた)。トラブルの後始末をしているブルキナファソの老カファンド臨時大統領の姿とも被るような気がしています。老獪ながら実直で腐敗とは無縁なイメージ。こういう政治家がもっといてもいいのにな、と思ってしまうのですが。

閑話休題。

ともあれ、戦争最終局面で紛糾する内閣と本土決戦を主張し、半ばクーデタを試みる若手将校たち、そのかじ取りをする鈴木貫太郎と、陸軍と内閣の調整をする主役の阿南惟幾。原爆が落とされ、ソ連の侵攻というギリギリの状況の中、ポツダム宣言を受け入れざるを得ないが、国体護持を巡り、内閣、陸軍は大きく揺らぐ。鈴木‐阿南、昭和天皇‐鈴木‐阿南の阿吽の呼吸の中で、鈴木内閣は何とかポツダム宣言を受諾にこぎつける。

この間の政治的な駆け引き、半藤一利はずいぶん調べ上げているのではないかと思う。とても共感をもってストーリーを追うことができるのだ。侍従長を務めていた鈴木、侍従武官だった阿南、壊滅状態にあった日本が天皇を中心にもう一度まとまろうとしている中での、これ以上ない人事だったこと、また、狂信的なナショナリズムの末に若手将校たちの血気盛んな抗戦論、そして、陸軍を抑え、戦後の復興を願い腹を切る阿南、そうした状況の舵を取り、暖かな、そしてさみしそうなまなざしを注ぐ鈴木。しかし、一方で、松坂桃李演ずる畑中少佐が別の話の主人公なはずで、彼の叙述はもっと語られるべきではないかと思った。もちろん別作で、ではあるが。

今回の作品の配役も本当に素晴らしく、役所広司の存在感がとにかく印象的。あの存在感の主役がいると、山崎努や本木雅弘のクラスでも少し霞んでしまうほどだから、あの演技を見るだけでも価値がある作品だと思います。

それで、この映画が撮影されているときにはまだ大きく報道されていなかった、安保法案やらに対する皮肉にも思えるようなセリフが一つ二つ。それを意図したものではないと思うが、この映画で描かれた、戦争を終わらせた昭和天皇、鈴木貫太郎、阿南惟幾という人が今生きていたら、最近のこの状況をどのように思うのだろうか。

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