合田真『20億人の未来銀行』(2018年 日経BP)

書影
5月18日、19日と勤務先の京都精華大学で開催された第56回日本アフリカ学会の公開シンポジウムにもご登壇いただいた合田真さんの著書です。

僕はネットビジネスや銀行業は、どうしても「怪しい…」が先行してしまう、なんとも頭の固い性質なのだけど、ひょんなきっかけで合田さんにお会いすることがあり、紹介されたご著書も、最初はやはりちょっと斜に構えて扉を開いたのでした…この本は読み始めたら一気に読めてしまう、とても読みやすい造りになっているのだけど、マストで読まねばならないものも多かったため、この本は飛び飛びに読まざるを得ませんでした。そのおかげ、というか、読んでいる途中にも、何度か直接にお目にかかり、合田さんのモザンビークでのお話を伺うことができたことは、この本の読者の中でも、もっとも恵まれた環境で読ませていただいたのではないかと思います。それでも、ずいぶん前に読み終わっているので、若干ほとぼりは冷めてしまったのですが、ようやく学会も終わり、少し落ち着いたこともあり、ブログ再開の第1弾として、こちらの本をご紹介したいと思います。

「20億人の未来銀行…」と題されたこの本は、端的に行ってしまえば、いわゆるICカードなどのIT技術を用い、日本の農協や地域通貨的なシステムを、のような機能を貧困層に利用できるようにし、貧困層特有のリスクを軽減していこうとする、合田さんのプロジェクトを綴ったものです。

合田さんのバックグラウンドは本書中にある程度書かれていますが、この本に書かれた合田さんのプロジェクトへの発想は、ご自身の経てきた様々な経験の上に成り立っています。おそらく日本人一般にある、おカネを扱うことの臆病さは、みじんも感じられず、より積極的な意味で、おカネを理解されようとしているような気がしました。しかし、そこには、おカネを自分のところに呼び寄せよう、ということには、「それほど」執着はない(「社長」なので、ある程度はないと困るので、「」内はそういう意味です)。そのことは、この本にもよく書かれていて、合田さんは次のように現在のおカネをめぐる仕組みを考察します。

「現在のお金の「ものがたり」の問題点がどこにあるのかと考えた場合、私は「お金でお金を稼ぐこと」を是とするところにあると思っています。私はここに、資源制約期たる現在の「現実」との齟齬を見るのです。「お金でお金を稼ぐ」すなわち「複利」で稼ぐことを是とするモデルは、資源拡張期においてのみ成立するのであって、資源制約期においては成り立たないのではないか」(51-52)

僕ら研究者は、すぐに大きな言葉で近代的/資本主義的/ネオリベ的なものを批判したがりますが、合田さんのこうした認識から語られる、再分配の仕組みへの違和感は、目からうろこで、お会いした時におっしゃっていた、「イスラーム金融が僕の目指す銀行の形」というのがこの本を読んで本当によくわかりました。

そして、この本を読んでいると、アフリカ研究者やNGO、そして、国際機関が常に土のにおいを感じさせながら唱えてきた「社会開発」は、すでに化石のような存在になってしまったようです。その方法もアクターも大きく代わっていき、暑苦しい「正義の味方」は、少しクールで理知的なへと変貌を遂げていきそうな気がします。

この予感は、アフリカ学会でもその一面を見ることができました。僕は運営業務のために総会には出られませんでしたが、その場で、老先生方の一部から、「これまで資本主義を批判し続けてきたアフリカ学会の公開シンポジウムで民間企業がクローズアップされるのはけしからん」という発言が出たそうです。きっと、アフリカの貧困に対するのは、「正義の味方」というイメージがこびりついているのではないか、と感じた発言でした。しかし、まさに彼らが主張してきた反グローバリゼーション、反ネオリベラリズムの現在の形、もしくは、将来への提案と試みが、この本の中に詰まっているのは間違いありません。老先生方にも、この本はぜひお勧めしたい、そんなことを思いました。

すでに、5年以上に渡ってモザンビークに広まったこの仕組みが、これからどうなっていくのか、注視していきたいと思います。

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